■もう一つの8時18分 第17話「春の天気」
佐代子は仕事についた。気持ちを入れかえて、「いらっしゃいませ」シャキッとした声は、いつもの佐代子に戻った証拠だった。佐代子は、仕事に集中しようとした。少し、自分を困らせている彼を忘れたかった。
受付に訪れる来客を次々にさばきながら、ふと玄関を見ると「ハッ」とした。「彼?」…違った。な〜にやってんのよ…わたし。少し背格好が似ている青年を見るたび、「ちがう」、「ちがうよ」、「来るはずないんだから…」意識して顔を見ないようにしている自分にだんだんイライラしてきた。
やっと交替時間が来た。ここに立っているのがもう辛かった。
そそくさとエレベータで上に上がった。自動販売機のブラックコーヒーを買って、自分のデスクについた。
佐代子は、デスクにつけば、秘書課の一員、担当する重役の秘書に戻る。佐代子の担当する役員は、専務の高橋、もう70を過ぎた彼はたたき上げでここまで上ってきた男だった。細身の体に真っ白な頭、そろそろ引退じゃないか、そんなうわさも最近ちらほらと聞こえていた。
佐代子は、高橋について今年で3年目になる。仕事のときはたたき上げの役員らしく、鋭い眼光を放ち、理路整然とビジョンを語る外部派遣の若手役員を一喝してしまうほど迫力があった。佐代子は、高橋専務とウマが合った。シャキシャキ動く佐代子を高橋は、かわいい孫のように思えたのだろう、佐代子のことをいつも「サヨちゃん」と呼ぶ、佐代子も高橋にそう呼ばれることに違和感はなかった。
高橋の部屋へコーヒーを運んでいった。高橋は、グアテマラしか飲まない。それも濃い真っ黒なコーヒーに砂糖をがんがん入れた。甘苦いコーヒーがお気に入り。
部屋に入り、ソファーの前のテーブルにコーヒーを置いて
「どうぞ」佐代子は、書類に目を通している高橋に声をかけた。
「サヨちゃん」、顔色よくないね、二日酔いかな?
「いぇ、そんなことございません、ご心配いただいてありがとうございます」
「アッハハハ、いや、余計なことを言ったね、すまんすまん」コーヒーを一口飲む
「それでは、何かありましたら…」佐代子は、頭を下げて、去ろうとした。
「サヨちゃん、待ってても何も来ないよ」
「はあ?」佐代子は、振り返った。
「だから、待っていても何もこないということだよ。最近のサヨちゃんは、春の天気のようだよ。カラッと晴れたと思ったら、今日のように曇ったり、わしの前でため息つくし…のう、わしだって、そのくらいわかるわい。」
佐代子は、真っ赤になっていく自分がわかった。
「あの〜」佐代子は、おじいちゃん、いや、高橋専務に聞いてみたくなった。
「うん?」うれしそうに高橋は佐代子の方を見ていた。
「やっぱり、押しですか?」こんなこと…そう思いながらも佐代子は尋ねてみた。
「そうだ。後悔しないで済む。わしは、そう思うぞ」高橋は、佐代子の方をじっと見て言った。
「ありがとうございます。」頭を下げて、佐代子は部屋を出た。
給湯室に戻り、片づけをしながら、佐代子は、「おじいちゃんったら」とクスッと笑った。
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佐代子は仕事についた。気持ちを入れかえて、「いらっしゃいませ」シャキッとした声は、いつもの佐代子に戻った証拠だった。佐代子は、仕事に集中しようとした。少し、自分を困らせている彼を忘れたかった。
受付に訪れる来客を次々にさばきながら、ふと玄関を見ると「ハッ」とした。「彼?」…違った。な〜にやってんのよ…わたし。少し背格好が似ている青年を見るたび、「ちがう」、「ちがうよ」、「来るはずないんだから…」意識して顔を見ないようにしている自分にだんだんイライラしてきた。
やっと交替時間が来た。ここに立っているのがもう辛かった。
そそくさとエレベータで上に上がった。自動販売機のブラックコーヒーを買って、自分のデスクについた。
佐代子は、デスクにつけば、秘書課の一員、担当する重役の秘書に戻る。佐代子の担当する役員は、専務の高橋、もう70を過ぎた彼はたたき上げでここまで上ってきた男だった。細身の体に真っ白な頭、そろそろ引退じゃないか、そんなうわさも最近ちらほらと聞こえていた。
佐代子は、高橋について今年で3年目になる。仕事のときはたたき上げの役員らしく、鋭い眼光を放ち、理路整然とビジョンを語る外部派遣の若手役員を一喝してしまうほど迫力があった。佐代子は、高橋専務とウマが合った。シャキシャキ動く佐代子を高橋は、かわいい孫のように思えたのだろう、佐代子のことをいつも「サヨちゃん」と呼ぶ、佐代子も高橋にそう呼ばれることに違和感はなかった。
高橋の部屋へコーヒーを運んでいった。高橋は、グアテマラしか飲まない。それも濃い真っ黒なコーヒーに砂糖をがんがん入れた。甘苦いコーヒーがお気に入り。
部屋に入り、ソファーの前のテーブルにコーヒーを置いて
「どうぞ」佐代子は、書類に目を通している高橋に声をかけた。
「サヨちゃん」、顔色よくないね、二日酔いかな?
「いぇ、そんなことございません、ご心配いただいてありがとうございます」
「アッハハハ、いや、余計なことを言ったね、すまんすまん」コーヒーを一口飲む
「それでは、何かありましたら…」佐代子は、頭を下げて、去ろうとした。
「サヨちゃん、待ってても何も来ないよ」
「はあ?」佐代子は、振り返った。
「だから、待っていても何もこないということだよ。最近のサヨちゃんは、春の天気のようだよ。カラッと晴れたと思ったら、今日のように曇ったり、わしの前でため息つくし…のう、わしだって、そのくらいわかるわい。」
佐代子は、真っ赤になっていく自分がわかった。
「あの〜」佐代子は、おじいちゃん、いや、高橋専務に聞いてみたくなった。
「うん?」うれしそうに高橋は佐代子の方を見ていた。
「やっぱり、押しですか?」こんなこと…そう思いながらも佐代子は尋ねてみた。
「そうだ。後悔しないで済む。わしは、そう思うぞ」高橋は、佐代子の方をじっと見て言った。
「ありがとうございます。」頭を下げて、佐代子は部屋を出た。
給湯室に戻り、片づけをしながら、佐代子は、「おじいちゃんったら」とクスッと笑った。
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