■もう一つの8時18分 第20話「縁」
次の朝、兄は早い新幹線の乗るからと、佐代子より先に部屋を出た。
佐代子は、兄を見送って部屋に戻り、身支度を整え、出ようとしたとき、ふとテーブルの足元にハンカチが落ちているのに気がついた。
「兄ちゃん…」ひょっとすると、まだ駅にいるかもしれない。兄の忘れ物をポケットに入れ駅に向かったが、兄の姿は見えなかった。
「まあ、いいか、また来るだろうし」佐代子は、昨日の兄の言葉で気をよくしていたのか、そんなのんきな気分でいられる余裕があった。
いつものように、地下通路を歩いていた。
「そろそろ来てくれるかしら」
いつものように、コツコツコツと…あれ、音がしてこない。
前を見ると、彼の姿があった。時計は8時19分
「電車、少し遅れたのかしら」
そういえば、彼を後ろから追うなんて初めてのことなんだ。電車が少しぐらい遅れるのなんて珍しくないのに。
彼の後ろ姿を見ながら、佐代子の心に、じいちゃん専務の「後悔しないで済む」、兄の「縁」という言葉が浮かんだ。
佐代子は、彼を追った。一歩ずつ、自分の歩みが速くなっていく、彼に近づきたい。もっと近づきたい。佐代子の顔は、キリッとした、いつもの表情から、不思議と穏やかな顔つきになっていった。
「縁だもの、だめなものはだめなのよね。」
「後悔したくないもん」
でも、彼が速く歩く人だと思っていたけど、全然追いつかない。佐代子は、ついに駆け足で彼を追った。
信号機を見た、青のまま…
「お願い赤になって」佐代子の願いが通じたのか、信号は赤に変わった。彼が、横断歩道のところで止まっている。
佐代子は、一気に追いついてきた。彼まであと10メートル
「どうすればいいの?」
あと5メートル
「何て言えばいいの?」
あと2メートル
「好きですなんて言えない…」
そのとき佐代子は、ポケットのハンカチに気がついた。
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次の朝、兄は早い新幹線の乗るからと、佐代子より先に部屋を出た。
佐代子は、兄を見送って部屋に戻り、身支度を整え、出ようとしたとき、ふとテーブルの足元にハンカチが落ちているのに気がついた。
「兄ちゃん…」ひょっとすると、まだ駅にいるかもしれない。兄の忘れ物をポケットに入れ駅に向かったが、兄の姿は見えなかった。
「まあ、いいか、また来るだろうし」佐代子は、昨日の兄の言葉で気をよくしていたのか、そんなのんきな気分でいられる余裕があった。
いつものように、地下通路を歩いていた。
「そろそろ来てくれるかしら」
いつものように、コツコツコツと…あれ、音がしてこない。
前を見ると、彼の姿があった。時計は8時19分
「電車、少し遅れたのかしら」
そういえば、彼を後ろから追うなんて初めてのことなんだ。電車が少しぐらい遅れるのなんて珍しくないのに。
彼の後ろ姿を見ながら、佐代子の心に、じいちゃん専務の「後悔しないで済む」、兄の「縁」という言葉が浮かんだ。
佐代子は、彼を追った。一歩ずつ、自分の歩みが速くなっていく、彼に近づきたい。もっと近づきたい。佐代子の顔は、キリッとした、いつもの表情から、不思議と穏やかな顔つきになっていった。
「縁だもの、だめなものはだめなのよね。」
「後悔したくないもん」
でも、彼が速く歩く人だと思っていたけど、全然追いつかない。佐代子は、ついに駆け足で彼を追った。
信号機を見た、青のまま…
「お願い赤になって」佐代子の願いが通じたのか、信号は赤に変わった。彼が、横断歩道のところで止まっている。
佐代子は、一気に追いついてきた。彼まであと10メートル
「どうすればいいの?」
あと5メートル
「何て言えばいいの?」
あと2メートル
「好きですなんて言えない…」
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