関西人の俺が、大阪のとある空調機メーカーに就職が決まった。ところが、配属は東京支店になっていた。
俺より3つほど年上の人事部の新入社員担当者と酒を飲む機会があり、そのことを尋ねた。その先輩、俺と同じ大学出身ということもあり、素直に答えてくれた。
俺 「先輩、なんで、技術系でおれだけ東京なんですか?」
先輩「いやな、お前、いろいろ研修のときにやったやろ」
俺 「俺、余計なことしすぎたんですかね?」
先輩「いや、そういうわけやない。ただな、新入社員の技術系を大鍋に入れたとせえよ。」
俺 「はい、俺らは釜ゆでにされるわけや」
先輩「まあな、それでグツグツと炊いたわけや、するとアクがいっぱい浮いてきよった。」
俺 「はあ…?」
先輩「そのアクをすくって、バッと投げたわけやな、わかるか」
俺 「…ようわかりませんが、少しわかるような…」
先輩「そのアクは、東京まで飛んでいきよったんや」
俺「おれは…アク?」
先輩「そのくらいのヤツやないと東京は勤まらんいうこっちゃ」
なんと、うまいこと言う先輩だろうと思った。だから、人事にいるんだと、そのときは非常に感激してしまった。
そして、花の東京…当時の新宿の高層ビル街を上を向いて歩いていた。「スゲェ〜」

ある日、先輩が飲みに行こうと誘ってくれた。モリヤさんだ。この人、この東京支店で唯一鬚をはやしていて、トラッドに身を固めた、なかなかおしゃれな人だった。
しこたま、酒を飲み、寮までの帰りの列車で…
某鉄道会社の車掌が…
「次は……、お出口は…」と独特の言い回しで、何を言っているかさっばりわからなかった。
まだ来たばかりの俺は、車内放送を一生懸命聞いた。自分がおりるところは次なのか、その次なのか、準備をして出口のところに行かなければならないからだ。
都会なら、当たり前のことだが、満員の列車では駅についてから降りようとしても、人混みの中で移動できずに間に合わないからだ。

「モリヤ先輩…何言っているか全然わからないですね」と俺が言った。
すると先輩いわく
「東京もんなは、田舎もんをばかりしとる…」と下を向いて吐き捨てるように言った。
「なるほど…」俺も続いた
社内放送は続いていた。どうも急行との乗り換えのことを言っているようだった。
すると、
突然…先輩は上を向いて怒鳴った!
さすが九州男児だった。
周りから、
「そのとお〜り」
「いいぞ、兄さん!」
「もっと言ってやれ、言ってやれ」と酔っぱらいの同情票がかなり集まった。
俺たち以外にも、何を言っているかわからない、変てこな調子の車内放送に腹を立てている人々がいることを初めて知った。
東京は、田舎者合衆国だからだ。
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