■バーテンダーかまたり「行きつけの店」
バイトが終わって、少し飲みたくなった。ふらふらと小路に入り、いつもの店のドアを開けた。「あ〜ら、いらっしゃい、カマキリちゃん」と元気のいい声で迎えてくれる。いつの間にか、この店に俺のボトルが入り、「カマキリちゃん」という愛称?までつけられてしまった。
おしぼりが出て、手をふいているうちに、ふぞろいな形の氷が入った、洒落た小さなロックグラスに、ハーパーが注がれていた。製氷器の氷を使わない。この店のいいところだ。不思議なことに、どうして味が違うのか俺にはわからないが、こっちの方がうまい、俺はそう感じていた。グッと一杯を口にして、腹わたにしみる感触が好きだった。「ふ〜ぅ」と吐く息にバーボンの香りがした。
「いただくわ」、何も言わないのに、勝手に人のボトルからウィスキーを自分のグラスに注ぎながら、ヨシキが俺の方を見てニコニコしていた。
そう…ここは、あの禁断の店「レグ」だ。
いつの間にか、レグは俺の行きつけの店になっていた。何でだろう?よくわからないが、仕事が終わると、一人で行くことも結構あった。そしてまたまたいつの間にか、俺のツケが利くようになっていた。学生の身分でツケの利く店を持っているなんて生意気にもほどがあるが、まあ若気のいたりと、ご容赦願いたい。
ヨシキは俺より3つぐらい上の二枚目おかま、ママの恋人?といううわさ、よく見ると、二人はおそろいの薄ピンクのポロシャツを着ていた。二人でカウンターに入って店を大体切り盛りしていた。
「ねえ、カマちゃん、床屋行った方がいいわよ」とヨシキが俺の髪の毛を引っ張りながら言い出した。
「そうやねぇ、もう三月も行ってへんわ」と俺
「やっぱりね、身だしなみって大切なのよ…ね」と紳士?のヨシキ
「ほな、バッサリ、短くしてくるか、半年ぐらい床屋に行かんでもええように…」と俺
「ねえねえ、カマちゃん、パーマあててみない?きっと似合うわよ」と、俺の冗談など完全に無視するヨシキ、マイペースなんだよな〜。
「え〜???俺、そんなん絶対似合わへんて」と、ヨシキのペースにはまっていく俺
「だって、カマちゃん、もともとウェーブかかってるでしょう、楽よ洗って放っておけばいんだから…」とヨシキ
「あ、そうなんや」と、完全にヨシキのセンスの良さに、ひょっとして、俺も格好よくなれるかも?みたいな妄想が広がる俺
「いいお店知ってるの、ここなかなかセンスよくてね、わたしもここに行くのよ、はい、ここね」と、美容院のマッチをもらってしまった。マッチを用意しているということは、男性客が多いということの証拠みたいなもので、そのときはふ〜んと思っていた。だが、実に自分の周りを見渡すとパーマ男が異常に多い時代だった。ふと、俺もやってみるかな、なんて思ってしまった。
後ろが、いきなり騒がしくなった。なんやろう?と後ろを売り向くと、オトミさんが、いきなり華やかな舞い?を披露しだした。ボックス客は、オトミさんに乗せられて、ヤンヤヤンヤの大騒ぎ…このオトミさん、全く不可解な筋肉系おかまさん。
そんなこんなしているうちに、カンバンの時間になってしまった。
「ごちそうさま」と席を立とうとすると
「ねえ、カマちゃん、お腹すいたでしょう?一緒に行こう」とママが誘ってくれた。
「どこ行くの?」と俺
「何か食べに行こう」とママ
お言葉に甘えて、タクシーにおかまさん3人といっしょに乗り込む俺、京都の街の入り組んだ通りをタクシーが走る。なんだ、かんだとやっぱり彼らは騒がしい。頭の回転速度には驚くばかりだ。ああ言えば、こう言う…の繰り返し。「あら、やだ…」「まぁ〜」が頭の中をぐるぐる回っていた。
車が止まり、三人について入った店はスペアリブの専門店だった。あらあら、高級そうなお店、俺は金の心配をしていた。
心配は無用だった。腹一杯、上等なスペアリブというものを初めて食った。うまかった。うまい酒もまたまた飲んだ。みんなおごってもらってしまった。いいのかな?と思いもしないところが、若気のいたり。
そして次の日曜日、俺は、例の美容院にいた。
すべてが終わり、眼鏡をかけた俺は…悲しかった。妄想はやはり妄想だった。
その美容院は俺の「いきつけの店」にはならなかった。
これすべて若気のいたり
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