「この野郎、またサボリやがったな、ふざけやがって…」と男子生徒を怒鳴った。
俺としては、珍しく、ちっとばかり説教しようとした。宿題をやって来ない連中がちょっと多かった日だった。
だって、新学期始まってすぐ進級テストがあるんだから、春休みだからってサボっていられては困るわけだ。
まあ、そんな親心での説教だ。
お前ら…これから先輩になるんやぞ、後輩からあの先輩バカだと思われたらどうするんや
(ここで気合いを入れて)
宿題一つちゃんとでけへん奴が、後輩に向かっていろいろ教えることなんかできるわけないやろうが…
(さあ、ここから努力について話を展開だ)
努力せんかい!
(しばらく周りを見ながら間を置いて…おおええ感じ!)
お前ら「スラムダンク」、読んだやろ
「読んだ」…と小さい声がそこらで聞こえる。うなづく女の子もいた。
(これだ…)
あの桜木健一も滅茶苦茶努力し…
「だれだ…それ」とちらちら声が…
(しまった…あれは「柔道一直線」だった)
桜木…桜木…出てこない。こまった。
「は・な・み・ち」と、目の前の女の子がニコニコして教えてくれた。
「桜木健一って誰だよ」と、説教されていることを忘れて、そっちに興味津々の男子生徒
「柔道一直線やんけ」と俺
「しらねぇ〜よ」と、ほぽ半数の生徒
「ライナ投げぇ〜だ〜という奴がおったんや…それから近藤正臣(こんどうまさおみ)が、足でピアノを弾くんや…」
「ダッせ〜」と、また笑い話になってしまった。
俺の説教は、その時点で、自滅した。
まあ、ええか…ふと、後ろの席を見ると、さっき俺に怒鳴られた男子生徒と目が合った、俺の方を向いて「ニヤリ」としやがった。
そう言えば、おんなじようなことが俺が小学生のころにあった。
6年生のときだった。
担任のカマキリ先生は休みで、隣のクラスのゴア先生が学活に来た。
このゴアのこわいこと、こわいこと、なんでゴアかというと、これまた懐かしい「マグマ大使」に出てくる宿敵ボス「ゴア」に怒った顔がそっくりだったからだ。またこれが体操選手みたいな筋肉マンで、水泳のときなんか、水泳パンツから毛がはみでるほど毛深くい、30過ぎの先生。
かすれた声で「学活後、校内花壇の作業をしてもらいたい。」
数名の名前が呼ばれ、俺の名前もあった。大体こういう特殊なことに力を貸せと言われるのは、頭のいい子やいいところの子ばかりだった。なぜか、そのころ、急に俺もそんなところに呼び出されるようになった。
一つには、サッカーや水泳で、曲がりなりにも学校代表の一員なんかになったりしていて、先生のウケが多少よくなったというか、ワルガキがスポーツで更正?するシンボル的な扱いをされたためと、今の俺は分析している。
なんだかかんだ言って、そういうところに呼ばれるのは、ワルガキの俺としたは誇らしかった。
黙っていればいいのものの…つい、照れかくしで「掃除さぼれるやんけ」と小声で隣の奴に言ってしまった。
ゴアは、すごい。ほんのヒソヒソ話も逃さなかった。
「ハシモト…来い」ゴアのかすれた低い声
「あかん…また、いかれる」と観念した。
前へすこすこと歩いていくと、いきなり棒でガツンといかれた。
「そんな奴は連れていかん」ゴアは吐き捨てるように言った。
そして、俺をそこに立たせておいて、説教が始まった。
「清掃というものは…」「自分たちの使うものに対して…」
そのとき、だんだん興奮してきたのか、ゴアが噛んだ。
しかし、そのパワフルな威圧感にだれも何も言わない。
だが、隣で立たされて聞いていた俺はつい「ニヤッ」としてしまった。
ゴアは、やはりすごい。俺のニヤリを見逃したりはしない。
「……」無言のまま、今度は棒の柄の太い方で、ガツンといかれた。
それを上目遣いに見ていたクラスの連中、我慢できなくて、大声で笑っていた。
これにはゴアも参ったようで、一緒に笑っていた。
数日前の俺と同じように自滅したわけだ。
よくテレビなんかで、「ニヤッ」とする奴がいると、そいつは絶対に敵であって、それも必ず悪者である。
だが、俺の経験から言わせてもらうと、悪者適役は「ニヤリ」なんてしない。
恐らく「フン」と鼻をならすだろう。皆さん違いますか?
「ニヤリ」とされたからといって怒ることはない。
その裏にはちゃんと多少の尊敬と、多少の愛情が含まれている。
今は、そう思うようにしているのだが…ニヤリとされる奴の言いわけかもしれないですがね。
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