■第17話 ドキュメンタリー 最終戦 「かましたれ!」
対戦相手の抽選が終わり、顧問の先生が対戦表を部員全員に配り、俺には印刷前に事前に教えてくれていた。
先生がプリントを配り「1回戦の相手は、北中学校です。」と言った。その瞬間、部員たちの表情は曇った。思ったとおりだった。
組み合わせ次第では、何とか1勝できるかと、かすかな期待を持っていた部員たちは、明らかに落胆していた。完全に意気消沈…。
対戦相手の北中は、秋の新人戦で県ベスト4になった。その新人戦の後、頼み込んで練習試合をしてもらったが、7対0で我が一中が、完敗した相手だった。
超強敵…というか、俺たちには格が違いすぎる相手だった。
そして試合当日(土曜日)…
●第1試合 VS 北中学戦
試合前、あの対戦相手発表のときの彼らの落胆を引きずっていた。
アップをしていても、笑顔すら見えない。声も出ていない。キャプテンのナオトすら、下を向いたままボールを蹴っていた。
アップを終えて、選手を集めた。
「座れ…作戦会議を始める」
車座になって、選手たちが座る。やはり下を向いてしまった。
「お前ら…負けると思てるやろ…」
選手達が、さらに下を向き「……。」
「勝ちたないんか?」
「勝ちたいです…」と、パラパラと細々とした声
「そやったら、お前ら、上向けよ…そんな下向いてどうすんねんや」
「あいつらスッゲーうめえもん」とセンターハーフのヤマ
「そやな、あそこのメンバーはほとんど少年サッカーからずっとまじめに練習してきた選手や、テクニックでかなう相手やないわ」
「体でけえよなぁ…」とキーパー吉田
「お前らとは筋肉が違うわ、鍛えとるからのぉ」
「やっぱり勝てねえよ…」谷川
「もし勝てるとしたら、お前らに残ってんのは、何や…精神力しかないやろうが、お前らが、勝ちたいと思う気持ち以外、相手に勝てるものはないやろう、ずっと一生懸命練習してきた奴らの方が強いのは当たり前や。それに勝つためには、ヤツらを上回る気力しかないやろう…」
「でもなぁ〜」キーパー吉田
そのとおりだった。精神論で勝てるなら、そんな楽なことはない。
でも、俺も必死だった。何とか、彼らの今の「あきらめ」に近い気持ちを払拭し、「よ〜し、やったろうやないか」せめて、そんな気迫を持たせたかった。
それしか…ただ、それしか俺たちにはなかったから…。
話は精神論から作戦に移った。
「北中の攻撃は、ポストプレー中心だったな、覚えているか? 練習試合でそれで5点取られた。ヤマ、ナオト、あのセンターのでかい奴にボールを持たせるな、これはお前らの仕事や。もし、持たれたら、絶対前を向かせるな…。」ヤマとナオトが顔を見合わせて、俺の方を向いてうなづいた。
「バックのトシとフミ…、向こうの両サイドの奴らは、ゆっくり来て、裏をねらって思い切り走り込んでくるから、そこを気をつけること。下手にボールを取りに近づくな。」…サッカー経験者のトシが、4月に入った3年生フミに話しかけている。そこへ若手助っ人コーチがコーチングに行く。
部員たちが、自分たちの仕事を確認しだした。あちこちで、ヒソヒソと相談をしている。よしよし、雰囲気出てきたぞ〜。しばらくほうっておいた。
「谷川、三沢…バックのトシとフミはかなりしんどくなるから、向こうのハーフにボールが渡ったら、すぐ戻ってバックと二人がかりで挟み込め。空いたところはナオトがスライド…ええか。」
三沢が「はいっ!」と返事をした。初めて部員から声が出た。
「それから、ここが大事や、よ〜聞けよ。あいつら、絶対、俺らが弱いと思って、油断してきよる。試合開始の始めが肝心やで…一発目の当たりで、ドーンとかましたれ、びっくりしよるぞ。
当たりは早め早めに、遅れた当たりは抜かれるだけやからな、体を入れて、腰を落として、絶対押し負けるな、あいつらに気力ぶちかましたれ。ええかぁ!」
「はぁい!」と部員からやっと、声が出だした。
「それから最後に、マサ、お前はフォアードや、今日は絶対ハーフラインから戻ってくるな。バックの連中を信じろ、きっと守ってくれる。そしてお前にパスを出してくれる。それまで耐えろ、お前が戻ったら、1点も得点できない。味方を信じろ…わかったか? マサ」
「うん…」マサは俺を見てうなづいた。
全員が俺の方をやっと向いてくれるようになった。
「さあ、行くでぇ! 行くでぇ!!」
選手「おーし!」
「よし、行ってこい」かけ声とともに選手を送り出した。
…選手達は整列した。
北中…完全に余裕の表情…にやにやと話をしている。
互いに礼をし、全員がポジションに走った。
形をつくり、ナオトが全員を見渡しながら、「一中、いくぞ〜!」と大きな声をかける。「お〜」と自分に気合いをいれるように、でかいが声を返ってきた。なかなか、気合いだけは入ったかな…。
北中のキャプテンが声を出す「みんな声出していこう!」と冷静な声、「お〜!」と、これまた余裕の声が返ってくる。
俺は、だんだん腹が立ってきた。
北中の生徒たちが悪いことをしているわけでもなんでもない。
ただ、その「余裕」が気にくわない。
ふと、横を見ると、顧問の先生、助っ人青年コーチもぶ然とした表情でグラウンドを見詰めていた。思いは同じだ。
審判がキーパーに確認し、時計を見た。
もう、俺はベンチで奴らを見守ることしかできない。
そして、俺はひたすら思った…
「いってまえ、あんな奴ら、かましたれ!」
つづく
<中学部活編>
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対戦相手の抽選が終わり、顧問の先生が対戦表を部員全員に配り、俺には印刷前に事前に教えてくれていた。
先生がプリントを配り「1回戦の相手は、北中学校です。」と言った。その瞬間、部員たちの表情は曇った。思ったとおりだった。
組み合わせ次第では、何とか1勝できるかと、かすかな期待を持っていた部員たちは、明らかに落胆していた。完全に意気消沈…。
対戦相手の北中は、秋の新人戦で県ベスト4になった。その新人戦の後、頼み込んで練習試合をしてもらったが、7対0で我が一中が、完敗した相手だった。
超強敵…というか、俺たちには格が違いすぎる相手だった。
そして試合当日(土曜日)…
●第1試合 VS 北中学戦
試合前、あの対戦相手発表のときの彼らの落胆を引きずっていた。
アップをしていても、笑顔すら見えない。声も出ていない。キャプテンのナオトすら、下を向いたままボールを蹴っていた。
アップを終えて、選手を集めた。
「座れ…作戦会議を始める」
車座になって、選手たちが座る。やはり下を向いてしまった。
「お前ら…負けると思てるやろ…」
選手達が、さらに下を向き「……。」
「勝ちたないんか?」
「勝ちたいです…」と、パラパラと細々とした声
「そやったら、お前ら、上向けよ…そんな下向いてどうすんねんや」
「あいつらスッゲーうめえもん」とセンターハーフのヤマ
「そやな、あそこのメンバーはほとんど少年サッカーからずっとまじめに練習してきた選手や、テクニックでかなう相手やないわ」
「体でけえよなぁ…」とキーパー吉田
「お前らとは筋肉が違うわ、鍛えとるからのぉ」
「やっぱり勝てねえよ…」谷川
「もし勝てるとしたら、お前らに残ってんのは、何や…精神力しかないやろうが、お前らが、勝ちたいと思う気持ち以外、相手に勝てるものはないやろう、ずっと一生懸命練習してきた奴らの方が強いのは当たり前や。それに勝つためには、ヤツらを上回る気力しかないやろう…」
「でもなぁ〜」キーパー吉田
そのとおりだった。精神論で勝てるなら、そんな楽なことはない。
でも、俺も必死だった。何とか、彼らの今の「あきらめ」に近い気持ちを払拭し、「よ〜し、やったろうやないか」せめて、そんな気迫を持たせたかった。
それしか…ただ、それしか俺たちにはなかったから…。
話は精神論から作戦に移った。
「北中の攻撃は、ポストプレー中心だったな、覚えているか? 練習試合でそれで5点取られた。ヤマ、ナオト、あのセンターのでかい奴にボールを持たせるな、これはお前らの仕事や。もし、持たれたら、絶対前を向かせるな…。」ヤマとナオトが顔を見合わせて、俺の方を向いてうなづいた。
「バックのトシとフミ…、向こうの両サイドの奴らは、ゆっくり来て、裏をねらって思い切り走り込んでくるから、そこを気をつけること。下手にボールを取りに近づくな。」…サッカー経験者のトシが、4月に入った3年生フミに話しかけている。そこへ若手助っ人コーチがコーチングに行く。
部員たちが、自分たちの仕事を確認しだした。あちこちで、ヒソヒソと相談をしている。よしよし、雰囲気出てきたぞ〜。しばらくほうっておいた。
「谷川、三沢…バックのトシとフミはかなりしんどくなるから、向こうのハーフにボールが渡ったら、すぐ戻ってバックと二人がかりで挟み込め。空いたところはナオトがスライド…ええか。」
三沢が「はいっ!」と返事をした。初めて部員から声が出た。
「それから、ここが大事や、よ〜聞けよ。あいつら、絶対、俺らが弱いと思って、油断してきよる。試合開始の始めが肝心やで…一発目の当たりで、ドーンとかましたれ、びっくりしよるぞ。
当たりは早め早めに、遅れた当たりは抜かれるだけやからな、体を入れて、腰を落として、絶対押し負けるな、あいつらに気力ぶちかましたれ。ええかぁ!」
「はぁい!」と部員からやっと、声が出だした。
「それから最後に、マサ、お前はフォアードや、今日は絶対ハーフラインから戻ってくるな。バックの連中を信じろ、きっと守ってくれる。そしてお前にパスを出してくれる。それまで耐えろ、お前が戻ったら、1点も得点できない。味方を信じろ…わかったか? マサ」
「うん…」マサは俺を見てうなづいた。
全員が俺の方をやっと向いてくれるようになった。
「さあ、行くでぇ! 行くでぇ!!」
選手「おーし!」
「よし、行ってこい」かけ声とともに選手を送り出した。
…選手達は整列した。
北中…完全に余裕の表情…にやにやと話をしている。
互いに礼をし、全員がポジションに走った。
形をつくり、ナオトが全員を見渡しながら、「一中、いくぞ〜!」と大きな声をかける。「お〜」と自分に気合いをいれるように、でかいが声を返ってきた。なかなか、気合いだけは入ったかな…。
北中のキャプテンが声を出す「みんな声出していこう!」と冷静な声、「お〜!」と、これまた余裕の声が返ってくる。
俺は、だんだん腹が立ってきた。
北中の生徒たちが悪いことをしているわけでもなんでもない。
ただ、その「余裕」が気にくわない。
ふと、横を見ると、顧問の先生、助っ人青年コーチもぶ然とした表情でグラウンドを見詰めていた。思いは同じだ。
審判がキーパーに確認し、時計を見た。
もう、俺はベンチで奴らを見守ることしかできない。
そして、俺はひたすら思った…
「いってまえ、あんな奴ら、かましたれ!」
つづく
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